中村哲医師は、この主の言葉をまさに体現した方である。アフガニスタンにおける長きに亘る活動は、医療支援事業、井戸事業、食料配給事業、大規模灌漑事業と多岐にわたり、延べ100万人にも及ぶ現地の人々の命を救ってきた。それは多くの困難に遭いながらも、現地の方々の信頼を得た上で愛情と忍耐を持って活動してこられた尊い働きの成果である。これまで現地の人々にどれほど多くの喜びと希望を与えてきたことか。あらためてその働きの大きさと尊さを思わずにはいられない。
中村医師は講演する度にこう話していた。「100の診療所よりも1本の用水路が必要だ」「飢えは薬では治せない」「薬があっても水と食糧がなければ命を救えない」「必要なのは武器ではなく、命の水です」「安心して、家族や仲間と暮らしができる社会が戦争を無くせる」「寒風の中で震え、飢えているものに必要なのは弾丸ではありません。温かい食べ物と温かい慰めです」「平和とは戦争以上の力であります。戦争以上の忍耐と努力が要ります」
私たちは中村医師の死を無駄にしてはならないと思う。活動する場所は違っても、各自が置かれた場所でどのように平和の実現を成し得るかを考えていきたい。中村医師の目指した「真に平和な世界」の実現に向かって、小さな歩みを続けていきたい。
連盟が加藤誠理事長名で「中村哲医師 追悼文」を表明したので、下記に紹介したい。
「ペシャワール会現地代表である中村哲さんの訃報に接し、心から哀悼の意を表します。中村哲さんはその若き日、福岡の西南学院中学校在学中に聖書を通してイエス・キリストに出会い、香住ケ丘バプテスト教会においてバプテスマを受け、クリスチャンとしての歩みを始められました。35年前に医師としてペシャワールに赴任されて以来、神を信じ、人を信じ、いかなる時にも現地の人々と危険と労苦を共にして取り組まれた働きは、『天、共に在り』の確かな信仰に裏打ちされたものでした。また、むさぼりと敵意があふれ、毎日おびただしい悲しみを生み出している世界にあって、中村哲さんの存在と働きは、あの最初のクリスマスに輝いた星のごとく、私たちにいつもイエス・キリストの平和の道を指し示し導くものでした。
私たちは今、その大きな星を失った悲しみに打ちのめされています。しかしながら、イエス・キリストの十字架が人間の罪の暗闇に呑み込まれて終わることなく、復活の命の出来事に変えられて世界中の人々に希望を与えていったように、中村哲さんがご自身の存在すべてを賭けて取り組まれた尊い働きは、平和の源である神のもとで必ずや人々の心を照らし続ける希望に変えられ受け継がれていくことを信じるものです。」(抜粋)