去る6月29日。勤め先の高齢者デイサービスでの季節の歌にこの一週間はなんといっても「七夕さま」だと、その初回のはずだった。
30年ほど前「ラブストーリーは突然に」というドラマが大ヒットしたが、神様の「時」もなかなかどうして突然だ。その「時」を境に私は大きく体調を崩し、二週間の入院生活を余儀なくされた。当然「七夕さま」は歌えずじまい。
最初の三日間はベッドから起き上がることも出来ず、眠れぬ夜を過ごした。右に左に寝返りを打ち、ウトウトしては目が覚めて、時計を見るも10分程しか経っておらず、夜明けはまだまだ何時間も先であることにがっかりする…。機械音だけが響く病室で、ふと平和学習で沖縄を訪れた時の、病院としても使われた自然洞窟、糸数壕の暗闇を思い出した。ガイドさんに促され懐中電灯を消したわずか数分間、隣にいる人さえも見えない漆黒の闇に身体ごと吸い込まれそうで足がすくんだ。沖縄戦のさなかこのガマ(洞窟)でどんなことがあったのか、ゴツゴツの岩場を歩きながら話を聞いたのだった。
私は空調もベッドも治療も食事も整えられた安心安全な中で、それでもこんなに夜の闇に閉口している。しかし、あの負傷兵の方々は、血の匂いと呻めき声が充満していたガマで、ゴツゴツとした岩の上で、大怪我に充分な治療も叶わず、日中でも真っ暗な闇の中で、その絶望はいかばかりであっただろうか。
4時半くらいになると白々と夜が明けて病室が明るくなってくる。あぁ、やっと夜が終わった、朝が来た、とホッとする。
しかし、78年前あの絶望的な暗闇の中にいた人々の中で一体何人の方がその闇から解放されたのだろうか。
「ヤギと少年、洞窟の中へ」という絵本に出会った。帯の最初に「忘れものがたり」とある。舞台は沖縄、敗戦後三年経ったある日、少年が飼っているヤギに導かれるように真っ暗な洞窟の奥へ奥へと進んでいく。めくってもめくっても真っ黒に塗りつぶされたページが続く。歩み進んだ先で待っていた人と少年が交わす会話は静かな優しさに満ちていた。そして、その人が少年に託した願いは切なすぎるほど当たり前のことだった。なのに78年経った今も叶えられていないどころか踏みにじられている。
読み終わって「忘れものがたり」の一行が胸に突き刺さった。そこにあった命を忘れない。そして夜明けを祈り続ける。
「光は闇の中に輝いている。闇はこれに打ち勝たなかった。」ヨハネ1:5(新改訳)